Between the Lines Vol.1
踊る人のそばで
—芸術家と生きる現場から
芸術家として生きることは、
表現している「いま」と、
まだ見えていない「その先」を、
同時に抱えながら進んでいくことだと、私は思っています。
作品をつくること以上に、日々をどう過ごし、どんな判断を積み重ねていくのか。
その選択の連なりが、踊る人の時間を支えることもあれば、思いがけず、次の道をひらくこともあります。
稽古場で、言葉が少なくなり、呼吸と身体だけが残っていくような時間があります。
何かを考えようとしなくても、身体が先に動いてしまう、あの瞬間。
踊る身体を通しても、そばで見ている立場としても、
あの時間には、心地よい緊張感が確かに流れていると感じます。
その一瞬、その一瞬を立ち上げていくこと。
それ自体が、アーティストの才能のひとつの素養なのだと、私は思っています。
そして、そうした時間は、偶然に生まれるものではありません。
日々の選択や、何を大切にし、何を手放すかという判断の積み重ねの上に、 ようやく立ち現れてくるものだと感じています。
けれど、そうした時間は、長く続くものではありません。
ほんの小さな判断や、何気なく交わされた言葉ひとつで、それまで積み上がっていたものが、ふっとほどけてしまうこともあります。
だから私は、作品の完成度よりも先に、
その人が今日も立っていられるかどうかを見ています。
踊れるかどうか、ではありません。
表現し続けられるかどうかを、見ています。
「前に立つ」のではなく、「そばにいる」という選択は、決して控えめな立場ではないと感じています。
現場で起きていることを引き受け、言葉にならない揺れを受け止め、それでも前に進むための余白を守ること。
私はそれを、自分の仕事だと思ってきました。
このコラムでは、現場で交わされた言葉や、選ばれなかった選択、そして、あえて語られなかった行間について、
少しずつ書いていきたいと思います。
踊る人のそばで。
芸術家と生きる現場から。
中沢恭子(なかざわ きょうこ)
CCJ(一般社団法人コレオグラフィックセンター)代表
東京生まれ。国立音楽大学を卒業後、公益財団法人日本舞台芸術振興会(NBS)にて、オペラ・バレエ・オーケストラを含む舞台芸術全般にわたり、主要海外オペラハウスの招聘公演に携わる。あわせて、同財団が運営する東京バレエ団および附属バレエ学校のマネジメントを担当。その後、株式会社サヤテイ代表として、首藤康之、中村恩恵をはじめとする第一線の舞踊家のマネジメント、公演企画・プロデュース、キャスティングを手がける。アーティストが創作に集中できる環境づくりを軸に活動し、プロデュースしたアーティストが紫綬褒章や文部科学大臣賞を受賞するなど、その取り組みは舞踊界の発展にも結実している。アーティスト一人ひとりの人生に寄り添う現場経験から、舞踊を取り巻く構造そのものへの問いを深め、一般社団法人コレオグラフィックセンター(CCJ)を設立。
現在は代表理事として、舞台制作・教育・キャリア支援を横断するプラットフォームを拠点に、次世代のダンサーと観客をつなぐ新しい舞台芸術のあり方を探求している。


