『TRIANGLE -First Stage-』 に寄せて
来る2026年4月18日(土)にCCJ主催の公演『TRIANGLE – First Stage –』が初演される。3名の若き振付家による性格の異なる三つの作品から作られる三部構成であり、中でも『愚者の旅』はタロットに着想を得た作品だ。遡ること2024年、年末。東京にタロット美術館があることをCCJ代表理事中沢が知ったことをきっかけに『東京タロット美術館』館長の佐藤元泰様との出会いからこれまでの間、3名の振付家、参加ダンサーの皆さまとタロットをテーマとした創作を重ねてきた。
今回のCCJ Journalでは、『愚者の旅』振付家 石原一樹の問いに、東京タロット美術館館長 佐藤元泰様がお答えいただくヴァーチャル対話形式で、創作の背景やタロットの存在意義、価値に迫りながら作品への理解を深めてみたいと思う。
(敬称略)
―タロットは心を映す象徴体系-
CCJ石原:
日本では、タロットが占いのツールとして認知されている側面もあるように感じておりますが、 佐藤様ご自身は、タロットをどのような存在として捉えていらっしゃいますでしょうか?
東京タロット美術館 佐藤:
日本ではタロットが占いとして親しまれていますが、私はそれをさらに広い意味で、人がどのように世界と向き合い、自分自身を経験してきたかを象徴(シンボル)化した体系だと考えています。
タロットは未来を決めるものというより、いまの自分の状態を映し出す心の鏡のような存在です。迷い、選び、揺れながら歩んできた人生の感覚が、象徴というかたちで表れています。占いという実践の中にも、実はこの「自分を見つめる」という側面は含まれているのではないでしょうか。
私にとってタロットは、答えを与えてくれるものではなく、自分と静かに向き合うための道具であり、大切な存在だと思っています。
―“踊り”と“タロット”、共に“自己を映す鏡”-
CCJ石原:
僕は踊りを鑑賞することは、踊りを観ていながら、同時に今の自分を見つめることでもあると考えているのですが、実はタロットカードを読み取ることも同じような側面があると思うのですが、いかがですか?
東京タロット美術館 佐藤:
踊りを観ることが、自分を見つめることでもあるというお話に、深く共感します。舞台上で動いているのはダンサーの身体ですが、それに心が動くとき、私たちは同時に自分の内側を感じています。理解するより先に、まず身体が反応している。タロットも同じです。カードを詠むとは、意味を当てはめること以上に、その象徴に触れたときの自分の感覚を確かめることなのだと思います。
踊りもタロットも、そして人生も、外に起こった出来事を通して、自分を見つめ直す時間と機会を与えてくれるものではないでしょうか。
―「塔」のカードが示す“変化の瞬間”-
CCJ石原:
落雷によって塔が崩れ落ちる様子が描かれた「塔」のカードを題材とした作品を昨年9月に創作し、今も、今年4月に上演される『愚者の旅』のなかで、愚者の価値観に変化を与えるような重要なシーンとしてアップデートをしています。 「塔」のカードは、タロットカードのなかではどのような存在ですか?
東京タロット美術館 佐藤:
「塔」は破壊のカードとして知られていますが、私は「これまで当たり前だと思っていたものが揺らぐ瞬間」を表していると感じています。私たちは知らず知らずのうちに、自分なりの世界の見方を築いています。しかしそれが崩れるとき、怖さと同時に、新しい視点が生まれます。愚者の旅の中で「塔」が重要な場面として描かれるのは、ごく自然なことだと感じます。変化は、いつも何かが崩れるところから始まるからです。
―象徴を立体化する創作対話の意義、素晴らしさ-
CCJ石原:
今回創作する『愚者の旅』では、僕の振付だけでなく、CCJが2025年から始めたTAROT×SOLOSという公演のなかで、他2名の振付家が創作された振付も取り入れる構成をしています。複数の視点からのクリエーションという点で、タロットカードも考案者と実際に絵をデザインする方とが共同で製作されることはありますか?
東京タロット美術館 佐藤:
タロットカードに描かれているテーマはひとつの答えに固定されるものではありません。「愚者」や「塔」といった象徴は、見る人によって異なる意味を持ち、語る人によって違う光を帯びます。そのテーマについて複数の視点から語り合い、それぞれの感性で創作していくことは、象徴の持つ多義性を豊かに開いていく営みだと感じます。
象徴は、対話の中で深まっていきます。一人で解釈するのではなく、互いの感じ方を持ち寄ることで、テーマはより立体的になります。
複数の振付家が同じテーマに向き合い、それぞれの感覚や身体を通して表現されるということは、その象徴の広がりを具体的に示す試みであり、とても素敵なことだと思います。
―「愚者」が象徴する可能性の出発点-
CCJ石原:
また、「愚者」カードも非常に面白い存在だと思うのですが、佐藤さんは「愚者」にどのような印象をお持ちですか?
東京タロット美術館 佐藤:
「愚者」は未熟さの象徴というより、「まだ決まっていない存在」だと思っています。何者でもなく、どこへ向かうかも定まっていない。けれどその不確かさの中に、可能性がひらかれています。「愚者」は出発点であると同時に、いつも“いま”に立っている存在だと感じています。
―「愚者」が示す未知への自由―
CCJ石原:
現代の映画や漫画にも、「愚者」の要素(何ものに縛られない自由さ)を持っている主人公が多くいるように思います。「愚者」は、複雑な社会を生きる私たちにとって、何か希望を与えてくれる存在だと思いますか?
東京タロット美術館 佐藤:
私は、「愚者」は希望そのものというより、希望が生まれる余白を象徴しているのだと思います。現代社会では、正解や効率が求められることが多い。しかし愚者は、正解を知らないまま歩き出します。それは無責任ではなく、未知に対して開かれているという姿勢です。
すべてを理解していなくても、一歩を踏み出してよい。
その静かな自由こそが、私たちに小さな勇気を与えてくれるのではないでしょうか。
【東京タロット美術館】
2021年開館。タロットを哲学・芸術・象徴文化の視点から紹介する美術館。
約5,000種のタロットカードを所蔵し、資料展示のほか、関連カードの紹介・販売を行う。講座やワークショップなどの活動も展開している。
所在地:東京都台東区柳橋2-4-2 6階
https://www.tokyo-tarot-museum.art/
※事前予約制

©Shinichi Sato
TRIANGLE -First Stage-
上演作品
『愚者の旅』
振付:石原一樹
音楽:クロード・ドビュッシー 他
出演:吉川留衣 宮本祐宜 大岩絹依 佐藤美桜 島津華子 新ヶ江天音 鈴木彩矢 中村胡桃 森田由依
『精霊物語』
振付:渡部義紀
音楽:フランツ・シューベルト 他
出演:清田カレン 杉山桃子 今井和奏 川浪ともな 櫻井美咲 鈴木彩矢
『シェイクスピアスイート』
振付:岡本壮太
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ 他
出演:川島麻実子 今井和奏 大岩絹依 川浪ともな 櫻井美咲 島津華子 新ヶ江天音 中村胡桃 岡本壮太 渡部義紀
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田中 瑞穂(たなか みずほ)
CCJ Journal編集長
大学卒業後、株式会社サザビーリーグにて国内外のライフスタイルブランドビジネスにおける情報システム、WEBディレクション、WEB戦略、デジタルマーケティング、EC構築リプレイス、デジタル人材育成、全社DX推進など多領域を担当。ブランドの世界観を言語化し、ファッション・美容・ライフスタイル領域の感性を磨いたのち独立。現在はみずほコンサルティング合同会社代表として、企業のブランディングやデジタルマーケティング支援に従事している。中でもスキンケア、スパに精通しておりサロン、ビューティ関連ブランドとの協業にも注力。CCJでは、IT/デジタルの知見に加え、図書館司書資格と“活字を愛する感性”を基軸に、編集長として、舞台芸術へのまなざしを、編集という技術で研ぎ澄まし、届けている。




