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2026.03.08

踊りと考えをめぐらせる 第3回 『愚者の旅』とは何か

踊りと考えをめぐらせる 第3回   『愚者の旅』とは何か

2026年4月18日に開催される『TRIANGLE -First Stage-』に向けて、タロットカードを題材とした『愚者の旅』の創作を進めています。今回のコラムでは、この作品の背景にある考えや、なぜタロットを踊るのかについて書いてみたいと思います。

タロットとの出会い
私は以前から、「踊るとはどういうことか」「身体で表現するとは何をすることなのか」を考え続けてきました。振付をするということは、単に動きを作ることではなく、人が世界をどう捉え、どう生きているのかを身体を通して探る営みでもあると思っています。そんな中でダンス作品の題材を模索していたとき、タロットカードに出会いました。文学や音楽、美術なども検討する中で辿り着いたその世界には、人が生きる上で避けて通れないテーマが象徴的に描かれていました。人生の選択、転機、喪失、成長――それらは時代や文化を越えて、誰にとっても無関係ではありません。
リサーチの過程で、CCJ代表の中沢恭子さんより東京タロット美術館の存在について教えていただき、CCJのメンバーで美術館を訪問しました。そこには、世界中のタロットカードがあり、資料も豊富に揃っていました。タロットについて勉強していくにつれて、タロットは長い歴史の中で、今の自分自身を見つめ直すための文化的な装置になっていったことを知りました。一枚のカードは見る者の内面を映し出し、一つひとつのモチーフは時間とともに意味が変化します。そこには唯一の正解ではなく、解釈の余白があります。タロットの「言葉では捉えきれない象徴性」こそが、身体表現と深く共鳴すると感じました。ダンスもまた意味を説明するものではなく、作品を観た方の感覚や記憶によって表現が立ち上がっていくからです。

タロットを踊るとは
CCJでは2025年から1年をかけて、振付家の岡本壮太さん、渡部義紀さんと一緒にタロットを題材とした作品作りを積み重ねてきました。リハーサルの現場では、振付家ごとに異なるアプローチでカードと向き合い、ダンサーと対話しながら創作していきました。一枚のカードに対し3人それぞれの解釈があり、そこにダンサーの身体性が掛け合わさることで、特定のメッセージを持つ作品ではなく、見る人の経験や状況によって異なる解釈が生じる多面的な作品が生まれました。
4月に上演される『愚者の旅』は、振付家の枠を超えて、これまでに作り上げてきた作品を凝縮し、一つの物語を構成しています。
愚者は日常を抜け出し、タロットの世界を巡りながら、「恋人」「正義」「悪魔」「塔」「星」「月」といったさまざまな象徴と出会っていきます。愚者はそれぞれの場面で、愛とは何か、正しさとは何かを問いながら、自分にできることを探していきます。

ダンス作品もまた自分自身と向き合う時間
『愚者の旅』は、正解を読み取るための作品ではなく、タロットカードのように自分自身と向き合うための作品です。作り手の意図を探るよりも、踊りや音楽、照明や空間の重なりを見つめる中で、自分の内面にどんな感覚が生まれるのかを楽しんでいただきたいです。
愚者とは、何も知らない存在ではなく、未知の世界へ踏み出す存在です。常識や既存の価値観に守られた場所から一歩外へ出るとき、人は誰しも「愚者」になります。情報に溢れ、何が正しいのかが見えづらい今だからこそ、自分自身の感性を信じ、歩み続ける「愚者」の姿を描きたいと思いました。
タロットやダンスに関心がある方だけでなく、何かの選択に迷っている方や新たなことに挑戦している方にも、この作品をご覧いただけたら嬉しいです。

石原一樹


『愚者の旅』リハーサルの様子  ©︎いわさきゆうた

 

 

石原 一樹

4歳よりクラシックバレエを始め、2013年より東京バレエ学校Sクラスにて首藤康之、中村恩恵に師事。学習院大学経済学部を卒業後、コンテンポラリーダンスを中心に活動し、鈴木竜、小㞍健太、遠藤康行らの作品に出演。
2018年より振付家として創作活動を開始し、これまでにセッションハウスアワード『ダンス花』(2019年)、『踊る。秋田賞』国内コンペティション(2022年)にてファイナリストに選出される。
現在はCCJ(一般社団法人コレオグラフィックセンター)を拠点に活動し、ダンス公演『月と若者』『ナルシス』『ドリアン・グレイの肖像』などクラシックとコンテンポラリーを往還する作風で新しい作品を生み出す。アーティゾン美術館にて開催された『パリ・オペラ座 響き合う芸術の殿堂』の関連イベント『バレエへの誘い』(2022年)や横浜みなとみらいホールで開催された「笹沼樹 チェロ 舞踊と紡ぐ美の世界『捧げし者』」(CCJ主催 2024年)では振付・演出を手掛けている。タロットをモチーフとしたシリーズ〈SOLOS〉では、『愚者』『塔』『正義』をもとに作品を発表。

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