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  • Column

2025.10.31

踊りと考えをめぐらせる 第2回 『The Roots』の創作から見つけたこと

踊りと考えをめぐらせる 第2回 『The Roots』の創作から見つけたこと

2025年11月8日、9日に開催される『The Roots Ayako Ono』に向けて、新国立劇場バレエ団プリンシパルの小野絢子さんとリハーサルを重ねています。第一線で踊り続ける小野さんとの創作の時間は、毎回が緊張の連続でありながら、非常に刺激的です。

『The Roots』は、ダンサーの“原点”を辿ることをコンセプトにしたプロジェクトです。
「なぜバレエの道を選んだのか」
「キャリアの中で、どんな作品が印象に残っているか」
「舞台上で何を大切にしているのか」
リハーサルが始まる前に小野さんとお話した際には、言葉を丁寧に選びながら、ご自身の考えを語る姿が印象的でした。伺ったお話や、過去のインタビューを辿りながらコンセプトを形づくり、振付を考えていく過程で、創作についての新しい気づきも生まれました。

『The Roots』よりリハーサルの様子  ©︎いわさきゆうた

 

「ルーツを辿る」というテーマはシンプルでありながら、とても奥深いものです。
ダンサーの過去と向き合うこの作品は、同時に、振付家としての自分の姿勢やクセに気づく時間にもなっています。“この作品は本当に小野さんの原点に触れる作品になっているだろうか”という自問を重ねるなかで、これまでとは違うアプローチが必要だと感じました。
普段の作品づくりでは、テーマを自分なりの視点で解釈し、中心となるメッセージを表現するために様々な工夫を凝らします。
しかし今回の『The Roots』では、小野さんのルーツそのものを、できる限り手を加えず、ありのまま作品にすることが大切だと感じています。こちらの意図を乗せすぎず、形を作り込みすぎないように気をつけながら、小野さんの言葉や経験から自然に浮かび上がるものを大切にする。そんなアプローチに挑戦しています。
これは僕にとって、大きな変化であり、とても新鮮な経験です。

本番まで、残り1週間。小野さんと、そして自分自身と、どこまで深く向き合えるか。
その挑戦を続けていきます。

小野絢子さんの踊りと言葉によって紡がれる、特別な時間を皆さまと共有できること楽しみにしています。
心に静かに残るひとときとなりますように。

石原一樹

 

石原 一樹

4歳よりクラシックバレエを始め、2013年より東京バレエ学校Sクラスにて首藤康之、中村恩恵に師事。学習院大学経済学部を卒業後、コンテンポラリーダンスを中心に活動し、鈴木竜、小㞍健太、遠藤康行らの作品に出演。
2018年より振付家として創作活動を開始し、これまでにセッションハウスアワード『ダンス花』(2019年)、『踊る。秋田賞』国内コンペティション(2022年)にてファイナリストに選出される。
現在はCCJ(一般社団法人コレオグラフィックセンター)を拠点に活動し、ダンス公演『月と若者』『ナルシス』『ドリアン・グレイの肖像』などクラシックとコンテンポラリーの境界を軽やかに行き来する新しい作品を生み出す。アーティゾン美術館にて開催された『パリ・オペラ座 響き合う芸術の殿堂』の関連イベント『バレエへの誘い』(2022年)や横浜みなとみらいホールで開催された「笹沼樹 チェロ 舞踊と紡ぐ美の世界『捧げし者』」(CCJ主催 2024年)では振付・演出を手掛けている。

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