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2025.09.22

『バレエ・トゥ・ブロードウェイ』。ウィールドンのボーダレスな世界をロイヤルのダンサーが踊る

『英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ 2024/25』の最後の上映作品は、バレエ団常任振付家クリストファー・ウィールドンの4作を集めた『バレエ・トゥ・ブロードウェイ』。ミュージカルやバレエ、コンテンポラリー、ポップミュージックなど、多様なジャンルをボーダレスに取り入れたニューヨークのパフォーマンスアート・シーンをウィールドンが描き、英国ロイヤル・バレエ団が踊る。

『パリのアメリカ人』に見るオランダルーツのブロードウェイとモンドリアン
『バレエ・トゥ・ブロードウェイ』はミュージカル『パリのアメリカ人』でトニー賞最優秀振付家賞に、マイケル・ジャクソンを描いた『MJザ・ミュージカル』でオリヴィエ賞舞台振付家賞に輝いたウィールドンの、ブロードウェイへのリスペクトを込めたミックスビルともいえようか。

『パリのアメリカ人』はそのミュージカルの抜粋、ダンス・シークエンス部分が踊られるが、バレエ作品として独立した味わいのある、1つの作品となっている。

ミュージカル自体は2014年パリのシャトレ座で初演された翌年、ブロードウェイで大ヒットを記録し、アメリカ演劇界の数々の賞を獲得。日本では劇団四季が上演したほか、ミュージカル映画も上映されているのでご覧になった方もいるだろう。もしかしたら1951年のジーン・ケリー主演の映画を見られた方もいるかもしれない。

ウィールドン版『パリのアメリカ人』は、その1951年の映画版にインスパイアされたものだ。パリで画家を目指すアメリカ人が主人公という物語ゆえ、1951年の映画では今回上映するダンスシーンにルノワールやマティス、ルソーやゴッホなど印象派やポスト印象派の絵画を使ったが、ウィールドンは抽象画の巨匠モンドリアンをモチーフに取り入れた。

ピート・モンドリアン(1872-1944)はオランダ生まれ。アムステルダムの学校で絵画を学んだ後、1918年から38年にはパリで創作活動をした「パリのオランダ人」で、第二次大戦の戦禍を避けて1940年、ニューヨークに移住した。モンドリアンの白地に黒の格子をベースに赤・青・黄の三原色を配した連作「コンポジション」はパリ時代の1920年頃から登場するようになるが、その当時の評価はそれほど芳しいものではなかった。しかしニューヨーク移住後、ブロードウェイのジャズやブギウギといったアメリカ音楽に刺激を受けて描いた「Broadway Boogie Woogie(ブロードウェイ・ブギウギ)」(1942–43)が大きな評判を得て一躍抽象画の巨匠として名を馳せ、それに伴い「コンポジション」も再評価されたのである。

アメリカ、ニューヨークに受け入れられたことでアーティストとしてのステップをさらに駆け上がったモンドリアンとウィールドン。第二次大戦直後に新時代を夢見たウィールドン版『パリのアメリカ人』のモチーフに、モンドリアンを選んだのも納得する。そういえばブロードウェイの語源も、英国人より前にニューヨークもといニューアムステルダムを建設したオランダ――モンドリアンの故郷の言葉「Breede Weg(ブレーデ・ウェグ/広い道)=Broadway(ブロードウェイ)」であったなというのは何やらこじつけ臭くなってはくるが、とはいえやはりこの地に刻まれた歴史の符号も感じるエピソードとは言えまいか。

ミュージカルのリーズとジェリーを踊るのはフランチェスカ・ヘイワードとセザール・コラレス。モンドリアンの三原色をまとったダンサーが繰り広げるポップでキッチュな世界観も満載の作品だ。

『パリのアメリカ人』
モンドリアン「Broadway Boogie Woogie
(ブロードウェイ・ブギウギ)」(1942–43)


愚者が世界を構築する『フールズ・パラダイス』
『フールズ・パラダイス』は 2007 年、ウィールドンが自身のカンパニー、モーフォーセズのために振付けたもので、英国ロイヤル・バレエでは2012 年からレパートリーとして踊られている。
一糸まとわぬ素の姿とも取れる肌色の衣装をまとった9人のダンサーにより2人、3人、4人と様々なフォーメーションの踊りが繰り広げられ、最後は全員で1つの静止世界を作り上げる。

個人的には「フールズ」と聞くとタロットカードの大アルカナの1枚目、0番の「FOOL(フール/愚者)」をどうにも連想するのだが、この「無垢」「縛られない」「はじまり」「自由」「こだわらないこと」、平たく言えば「なーんも考えてない」フールズが自由気ままに踊り続け、様々な出会いを経ながらタロットの最後のカード「WORLD(世界/ザ・ワールド)」に辿り着くというようにも思える。個人の解釈である。

出演は高田茜、ブレイスウェル、ヴィオラ・パントゥーソ、リアム・ボズウェル、マリアネラ・ヌニェス、ルーカス・B・ブレンツロド等々、目が定まらないほどに豪華だ。

『フールズ・パラダイス』高田茜、ブレイスウェル、リアム・ボズウェル
『フールズ・パラダイス』マリアネラ・ヌニェス、ルーカス・B・ブレンツロド


オーケストラとの舞台上の共演2作
アメリカのショー・シーンとの融合を象徴するのが、オーケストラを舞台に上げて踊られる作品『トゥー・オブ・アス(ふたり)』と『Us(僕たち)』。

『トゥー・オブ・アス(ふたり)』は2020 年初演、ニューヨーク・シティ・バレエのサラ・マーンズと、デヴィッド・ホールバーグ(現オーストラリア・バレエ芸術監督)に振り付けられた作品。コロナ禍の折、無観客配信として上演されたものだ。オーケストラに加え、ジョニ・ミッチェルの4 曲をジュリア・フォーダムが舞台上で歌うなか、ローレン・カスバートソンとカルヴィン・リチャードソンによる男女の心模様が表現される。

『Us(僕たち)』は2007 年、バレエ・ボーイズのウィリアム・トレヴィットとマイケル・ナンのために創作した作品で、今回が英国ロイヤル・バレエでの初演。マシュー・ボールとジョセフ・シセンズが男性同士ならではの力強さや繊細さなどが表現されるデュエットを、官能的な魅力的も醸しながら踊る。

英国ロイヤル・バレエのスタア―ダンサーらが次々と登場するのも、ミックスビルならではの楽しみだ。


『トゥー・オブ・アス(ふたり)』 ローレン・カスバートソン
『Us(僕たち)』 マシュー・ボールとジョセフ・シセンズ

本文写真:©2025 Johan Persson

英国ロイヤル・オペラ・バレエ&オペラ in シネマ
『バレエ・トゥ・ブロードウェイ』
振付:クリストファー・ウィールドン

『フールズ・パラダイス』
出演:高田茜、ウィリアム・ブレイスウェル、マリアネラ・ヌニェス、ルーカス・B・ブレンツロド、ヴィオラ・パントゥーソ、リアム・ボズウェル、テオ・デュブレイユ、アネット・ブヴォリ、ジャコモ・ロヴェロ
音楽:ジョビー・タルボット
『トゥー・オブ・アス(ふたり)』
出演:ローレン・カスバートソン、カルヴィン・リチャードソン
歌唱:ジュリア・フォーダム
音楽:ジョニ・ミッチェル
( I Don’t Know Where I Stand、 Urge for Going(アージ・フォー・ゴーイング)、Both Sides Now(青春の光と影)、You Turn Me on I’m A Radio(恋するラジオ))

『Us(僕たち)』
出演:マシュー・ボール、ジョセフ・シセンズ
音楽:キートン・ヘンソン

『パリのアメリカ人』
出演
リーズ:フランチェスカ・ヘイワード
ジェリー:セザール・コラレス 他
音楽:ジョージ・ガーシュウィン

9/19(金)~9/25(木)TOHOシネマズ 日本橋 ほか1週間限定公開
公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/

 

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