先ごろ新日本フィルハーモニー交響楽団(新日本フィル)の2026/27シーズン定期演奏会ラインナップが発表された。合わせて現音楽監督の佐渡裕氏の任期を2030年3月まで延長するとしたほか、次代の音楽家育成のための「NJPルアカデミー」の設立も公表された。
すみだの町とともにあるオーケストラに
会見ではまず、佐渡裕音楽監督の2030年3月までの任期延長が発表された。これは音楽監督選考委員会の全会一致の決定によるもので、佐渡氏と楽団員との相互理解と融合が進み、意欲的な作品や名曲の質の高い演奏が実現していることや、クラシック公演全体の観客が減少傾向にあるなかで、新日本フィルの演奏会の観客数は増加していることが挙げられたという。
佐渡氏は新日本フィルが創立50周年を迎えた2022年4月、ミュージック・アドヴァイザーに就任。新日本フィルが拠点とする「すみだトリフォニーホール」のある墨田区の「すみだ音楽大使」にも任命され、2023年の音楽監督就任以降も楽団員とともに中学校、高校の訪問などを含めた積極的なアウトリーチ活動を行っている。「新日本フィルとともに仕事をするにあたり墨田区に住居を借り、楽団員に案内してもらいながら墨田という町を知ろうとした」と佐渡氏。80年前の戦災で焦土となった墨田区と、氏が芸術監督を務める兵庫県立芸術文化センターのある、震災から復興した神戸を重ねながら「墨田区とすみだトリフォニーホール、新日本フィルというオーケストラが一体となることで、素晴らしい音楽を通して、祈りと未来につながるものが生まれれば」と話す。
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![]() 佐渡氏と宮内理事長 |
NJPアカデミー創設で若手の育成にも尽力
新日本フィルがこのほど取り組むNJPアカデミー創設についての発表もあった。これは若手演奏家の育成と音楽文化の発展を目指す新制度で、アカデミー生は主席奏者やコンサートマスターのレッスンを受け、リハーサル見学やエキストラ出演、アウトリーチ活動や室内楽などに参加する。
第1期生はコンクールなどで顕著な成績を収めた演奏者から、クラリネットの野辺かれん(東京芸大大学院修了)、ホルンの多田亮吾(東京芸大4年)、ヴァイオリンの栗原壱成の3名を選出。今後、プロとしての現場に即した経験を積みながら成長することが期待される。2期生以降は15歳から29歳までを対象としたオーディション形式で募集を行う。
2026/27シーズンのラインナップ
2026/27シーズン定期演奏会〈トリフォニーホール・シリーズ〉と〈サントリーホール・シリーズ〉は佐渡氏就任から軸に据えてきた「ウィーン・ライン」を引き続き継承し、ドイツ・オーストリア系の大作を中心に、才能ある若手や女性音楽家、弾き振り、古楽プログラムを取り上げるなど、多彩な内容となった。
4月の開幕公演には、若手指揮者カレン・ニーブリンを招き、バツェヴィチ《オーケストラのための序曲》、クララ・シューマン《ピアノ協奏曲》(ピアノ:小林愛実)、さらにサン=サーンス《交響曲第3番「オルガン付き」》を演奏。気鋭の女性音楽家の共演に期待が高まる。5月には名匠ミシェル・タバシュニクがブラームス《交響曲第2番》、ショスタコーヴィチ《チェロ協奏曲第1番》(チェロ:アンドレイ・イオニーツァ)、ラヴェル《ラ・ヴァルス》を披露する。
6月には佐渡氏が「この方をお迎えできてうれしい」と語るメゾ・ソプラノの藤村実穂子とともに《マーラー交響曲第3番》を、9月にはブルックナー《交響曲第5番》を指揮。10月はピアニストであり作曲家オリ・ムストネンが、自作《トリプティーク》とベートーヴェン《ピアノ協奏曲第5番「皇帝」》、メンデルスゾーン《交響曲第3番「スコットランド」》を弾き振りで演奏する。
2026年1月は佐渡氏によるサン=サーンス《ヴァイオリン協奏曲第3番》(ヴァイオリン:アレクサンドラ・コヌノヴァ)、R.シュトラウス《交響詩「英雄の生涯」》が予定されている。2月はリコーダー奏者ドロテー・オーバーリンガーがバッハやテレマン、ベートーヴェンを吹き振りで演奏する。
![]() カレン・ニーブリン©Marshall Light Studio |
![]() 小林愛実©Makoto Nakagawa |
![]() 藤村実穂子©R&G Photography |
![]() オリ・ムストネン©Laura Malmivaara |
新たなファンを増やす好プログラム「すみだクラシックの扉」
また、宮内義彦理事長が「(新たな聴衆のために)よく知られた名曲をしっかり演奏するということはとても大事。私はこの〈扉〉シリーズは非常にいいプログラムだと思う」と語る公演〈すみだクラシックの扉〉シリーズは、名曲を国別・地域別にラインナップした演奏会。
オーストリア、北欧、日本やフランス、ハンガリーとチェコ、ロシアなど多様な国に縁ある音楽が選曲され、まさにクラシックへの「扉」として親しみやすい内容となっている。佐渡氏も6月の「ドイツ」でブラームス《ヴァイオリン協奏曲》(ヴァイオリン:三浦文彰)、《交響曲第1番》、1月の「ロシア」でチャイコフスキー《交響曲第4番》、ハチャトゥリアン《ヴァイオリン協奏曲》(ヴァイオリン:アレクサンドラ・コヌノヴァ)、プロコフィエフ《組曲「3つのオレンジへの恋」》で登場する予定。藤岡幸夫、沼尻竜典、上岡敏之ら日本の指揮者に加え、アルマ・ドイチャーやコルニリオス・ミハイリディスなど若い才能にも期待したい。
![]() 藤岡幸夫©Shin Yamagishi |
![]() 上岡敏之©武藤章 |
![]() 沼尻竜典©ayane shindo |
![]() 三浦文彰©Yuji Hor |
先にもふれたように、新日本フィルはコロナ禍以後、堅実に観客数を伸ばしているという。その理由について、佐渡氏は先の宮内理事長の言葉を引用しつつ「名曲をしっかり演奏することが新たなファンの獲得に一番いいことだと思っている」と話した。また、コンサートマスターの崔文洙氏も新日本フィルが1972年、指揮者・小澤征爾氏と山本直純氏の掛け声の下誕生した歴史にふれ、「このオーケストラはクラシックについては小澤さんが、それ以外ところでは山本さんがポップスやジャズなども含めた部分を担当して牽引してきた。定期公演以外の委託公演などでも素晴らしい、いい演奏をすることが新規ファンに音楽に興味を持ってもらい、定期演奏会へ足を運んでいただくことにつながる」と語った。
2026/27シーズン定期演奏会ラインナップ詳細については公式サイトにて
https://www.njp.or.jp/
Art & Travelライター
西尾知子