CCJJournal

  • Interview

2024.12.03

Choreographer Interview Sota Okamoto

岡本 壮太 Sota Okamoto
振付家(CCJ)

一言で言うなら、「静かなる観察眼を持つ男」というべきか。
冷静に並ぶ言葉の隙間から静かな思いが埋火のようにちらちらと覗く。
バレエを始めたきっかけから、今後の創作への思いを聞いた。

東京バレエ学校からドイツへ留学
バレエを始めたのは8歳のとき。「喘息があったので身体を動かすことがいい、と医師にすすめられたこともあるが、おそらくバレエ好きの母の夢でもあったのでは」と岡本。だが踊ることが性に合っていたのだろう。13歳で東京バレエ団附属の東京バレエ学校に入学した頃から、バレエと本格的に向き合うようになる。「東京バレエ団のプロのダンサーの踊りに触れられることも刺激のひとつだった。首藤康之さんをはじめ、当時在籍していたダンサーの方々の、そこにいるだけで醸す存在感にあこがれた」と振り返る。東京バレエ学校在籍中には「文化庁新進芸術家国内研修生」にも選出された。この時、研修費用を用いてバレエのみならず歌舞伎や、シルク・ド・ソレイユ、ダンスなど、ジャンルを問わず様々な舞台を見に行った。「今思えば、やはりこの経験はとても大きな蓄積になっている。とにかく劇場の空間にいることが好きで、それがとても楽しかった」と振り返る。
2005年、機会を得て高校の卒業を待たず、ドイツ国立ベルリンバレエ学校への留学を決めた。「学校の勉強はそんなに好きじゃなかったし、行くなら今だと思った」という、思い切りのよい決断だった。当時のベルリンはまだ東ドイツ時代の名残の残る時代。ドイツ語、ロシア語、英語が入り混じる環境の中でクラシック、コンテンポラリーのほか解剖学など座学の授業もあったという。2009年に同バレエ学校を卒業と同時に、提携関係にある演劇学校、エルンスト・ブッシュ大学のディプロムBachelor of artsを取得。「ドイツ時代に徹底的にバレエのクラシックの型――基礎を身体に叩き込んだことが財産の一つになっていると思う」と振り返る。


『Embers』

プロダンサーとしてのキャリアはドイツから
大学卒業後はドイツメクレンブルグ州立劇場シュベリンバレエ団と契約し、プロのバレエダンサーとしてのキャリアがスタートする。小さなカンパニーだったこともあり、クラシックよりはコンテンポラリーダンスを踊る機会の方が多かった。外部の振付家を招いての創作ダンスを踊る機会を通して、創作の現場も体験する。「バレエといえばクラシックだったのだが、コンテンポラリーバレエの面白さに気づき始めたのもこの頃」という。
約5年間、ドイツでプロのダンサーとして働いたのち、2014年に帰国を決める。「ドイツでの職業ダンサーという安定した環境に、違和感を覚えた。ダンサーとして自分が今踊っている環境がかみ合わなくなってきた」ことがその理由だという。
帰国後はNoismを経て、2015年に「古巣」ともいえる東京バレエ団に、オーディションを受けて入団する。斎藤友佳理芸術監督が就任したばかりの年だった。東京バレエ団ではじめて踊った演目はかつて東京バレエ学校在籍中にも経験した『ボレロ』のエキストラ。さらに横浜の野外公演『ドン・キホーテ』では市民役として日本でのバレエの舞台に立つ。「昔、少年科時代に踊った演目で再び舞台に立てて“戻ってきたんだな”という思いが改めてこみあげてきた」という。その一方で、ドイツではあまり踊る機会のなかった古典を日本で再び踊ることを通して、「古典の難しさを改めて感じた。立ち位置や体の使い方などすべてやり直すような感覚で、ある意味一からまたバレエに向き合う状況だった」。


『Odi Et Amo』(SAI DANCE FESTIVAL 2023 Competition)
出演:梶田 留以  岡本 壮太

東京バレエ団「Choreographic Project」を経て振付家の道へ
転機は2017年、東京バレエ団でダンサーによる創作作品を発表する「The Tokyo Ballet Choreographic Project」の開始。第1回公演の作品に選ばれたことで「創作のスイッチが入った。自分の頭の中で思い描いているイメージがプロのダンサーの動きを通して視覚化されていくことに面白さと刺激を感じた」。
以後、東京バレエ団ではクラシック作品のほか、モーリス・ベジャール、 ローラン・プティなど多様な現代作品に出演して経験を積み、2018年に退団。振付家として本格的に活動を始める。現在はCCJに拠点を置きながら、東京バレエ団、アーキタンツなどにも作品を提供。2023年にSAI DANCE FESTIVAL 2023 Competition に参加した際、Contemporary Ballet of Asia(韓国)招聘作品に選出され、作品を発表する機会も得た。また、同年に行った自主企画公演 《TREFFPUNKT》は椅子をテーマとした複数の振付家によるオムニバス作品を、ダンスや映像を含めた多角的な表現でまとめ上げるといった、新たな試みにも挑んだ。自身の作品は映像作品として発表。「過去に振付した作品を、あえて映像という方法で表現してみた。ダンサーや撮影者など、いろいろな人がいてできた作品でもあり、関わる人が変われば同じ作品も別のものになる。チャレンジとしてはとても面白かったので、また別の映像作品にも挑戦してみたい」。
岡本にとって振り付ける、つくることとは何か。「その時その時でちがうけれども」と前置きしつつ、「自分とは何か、“個”とは何か、ということは常にあると思う」と静かに語った。

『W.W.W. マクベス 3人の魔女』(CCJ)©︎岩﨑 祐太
出演:梶田 留以  柴山 紗帆(新国立劇場バレエ団)
  岡本 壮太

Art & Travel ライター
西尾知子

 

岡本 壮太  Sota Okamoto
神奈川県出身。8歳よりバレエを始める。2003年、東京バレエ学校在籍中に「文化庁新進芸術家国内研修生」に選出。2005年にドイツ国立ベルリンバレエ学校に入学、2009年に同バレエ学校及びベルリンErnst Busch大学バレエ科卒業(Bachelor of arts取得)。2014年までドイツ・メクレンブルグ州立劇場シュベリンバレエ団に在籍。帰国後Noism1を経て、2015年より東京バレエ団に入団。古典作品のほか、モーリス・ベジャール、ローラン・プティなど現代振付家の作品に多数出演。また、シルヴィ・ギエムファイナルツアーをはじめ、イタリアドイツほか、海外ツアーにも参加。2018年に同団を退団、その後もダンサーとしてだけでなく、振付家として東京バレエ団、DAIFUKU、アーキタンツほかに作品提供するなど活動の場を広げている。2023年、SAI DANCE FESTIVAL 2023 Competitionにて、Contemporary Ballet of Asia(韓国)招聘作品に選出。自主企画公演《TREFFPUNKT》でアーツカウンシル東京2023年度スタートアップ助成に選出。

 

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