コロナ禍をパリ・オペラ座バレエのメンバーはどう過ごしていたのか
どんな状況でも踊り続けるダンサーの姿に感動
コロナウイルスによるパンデミックのために、2020年3月にパリ・オペラ座は閉鎖されました。3カ月間、自宅待機していたダンサーは6月15日に再び劇場に集まり、パリ・オペラ座バレエは活動を再開します。カメラはダンサーたちが戻ったこの初日から入って彼らを追っていきます。
現役ダンサーが踊れないでいる時間の重み
「クラスレッスンの風景がこんなに美しいなんて」と思わず息をのんで見入ってしまいました。久しぶりにみるエトワールたち、テクニックがあるだけでなく、存在そのものが美しいことに改めて感嘆しました。彼らはヌレエフ版『ラ・バヤデール』の上演へ向け練習を始めます。ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェ、アマンディーヌ・アルビッソン、マチュー・ガニオ、マチアス・エイマン、みんな元気そうです。
とはいえ、絶頂期にあるダンサーにとって自宅待機の数カ月がどれほど貴重な時間であるか、また自分の体と何十年と向き合ってきているとはいえ、やはり導く人がいてさらにブラッシュアップされていく、ということが時折挟まれるダンサーのコメントやリハーサル風景から伝わってきました。そういう葛藤、焦り、試練、孤独は超一流の世界のトップダンサーであっても同じなのです。
素晴らしいリハーサルシーンが満載
ハイレベルなリハーサルの様子が映し出されるのですが、特にプルミエール・ダンスールのポール・マルクの「ブロンズ・アイドル」は目を見張ります。リハーサルスタジオにいるカンパニーの全員がやんやの大喝采。圧巻のソロに舞台の成功の予感を抱いて見続けていると、開幕の4日前に再びロックダウンで劇場は閉鎖されて公演は中止になってしまいます。配信するために1日だけ、無観客で上演されることになりました。誰もが初めての経験。カーテンコールの際に、なんとブロンズ・アイドルを踊ったポール・マルクがエトワールに任命されます。
ダンサーにとって最高位のポジションに辿り着くことはどれほど名誉で晴れがましい瞬間でしょう! でも無観客でお客さんからの祝福がないという状況。本人は嬉しそうでしたが、見ていて本当に切なくなるシーンでした。
舞台上演がかない、大団円へ
今度は『ロミオとジュリエット』上演に向けリハーサルが始まります。古典バレエ作品はたくさんの人が集い、気持ちを一つにして開幕へ向かって仕上げていかねばなりません。どんな状況下でもあきらめずにひたむきに踊る……、ダンサーの姿に胸を打たれます。
『ロミオとジュリエット』がお客様を迎えて、無事に上演されます。ジュリエット役を踊ったパク・セウンがエトワールに任命され、映画は終わります。
劇場は舞台上演を続け、新たなスターが誕生する、そういう本来当たり前の日常がこれほどドラマチックな映画になってしまったことに驚きます。
そしてポール・マルクは、映像に残されたことで彼のエトワール任命の瞬間を世界中の人が目にすることができたのも良かったと思うのでした。
(文:結城美穂子)
2022年8月19日(金)、Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開
配給GAGA:https://www.gaga.co.jp